「建築における3Dプリンタ原寸活用のこころみ」
昨年9月、スウェーデンから大型工業用ロボットアームを躯体とした3Dプリンタの部品が続々と私たちのアトリエに到着しました。スウェーデンの技術者たちが来日して組み上げたプリンタは、ベットサイズ2mx4m、ヘッドの到達高さが3mに届く大きさ。私たちは日本のアトリエ事務所として初めて自社に大型3d
プリンタを導入しました。
現在は自社で設計した内装や造作、アートをこのプリンタを用いアトリエで制作。これらは合成樹脂でつくられており使⽤後には自分たちで粉砕し、新たな形につくり変えて再利⽤することが可能です。⽇本ではまだ前例が少ない⼤型3Dプリント技術を用いて建築の設計と実現を両側面から検討しています。
▪️3dプリント事業立ち上げのきっかけ
このプロジェクトを立ち上げたのは、コロナ禍において最後のまん延防止等措置が明ける数ヶ月前の2022年の始めのことです。世界中で同様に降りかかったこの災難を経験し、社会全体課題を意識するようになりました。建築家としての仕事を見つめ直す中で、襟を正して社会全体の課題に向き合った仕事をしたいと思ったのがきっかけです。
そんな時に、建築家ではないエンジニアたちが、建築の持続可能性について、違う角度から一歩踏み込んで取り組んでいることを知りました。最初に興味を持ったのは、イタリアのWASPという会社が手掛けたTeclaというプロジェクト。その土地の土を使い、プリンタで積層造形することで、非常に美しい建物を建てています。建材の輸送に関わるCO2の排出がなく、建設プロセスを最適化し、人的資源とエネルギー資源の使用を最小限に抑えることで、3dテクノロジーが建物を作成できるということを実証したプロジェクトです。日本では基準法との整合や風土などから、躯体そのものをプリントすることはまだまだハードルが高いと考えましたが、この技術を建築家たちが自らの手法の一つに加えることは大変意義深く感じました。
3dプリントは造形全般における従来の手法とは大きく異なるため、その設計手法や検討もこれまでとは違う視点が必要です。建物の設計に何を設計要素として組み入れないとならないのか、それを私たち建築家も知らなければ、この技術を用いて建築をつくることはできないと考え、この機械を自社で持つことにしました。
▪️3dプリンタ
建築を再生可能なものにするという視点のもと、私たちのアトリエでは合成樹脂を材料とした3Dプリンタを導入しました。
プラスチックはその不適切な使用や廃棄が環境に与える悪影響を取り沙汰されるが、適切にマテリアルリサイクルすれば、少量の熱を加えるだけでCO2を排出せずに再利用ができ、長く使っていくことができる資源となります。
日本では樹脂の大型3Dプリンタは3軸直交ロボットによるガントリー式、いわゆる卓上3Dプリンタを大きくスケールアップしたものが主流です。正確に水平積層することができ、精度が高いという特徴があります。一方、世界のデザイナーたちが取り入れている工業用6軸ロボットアーム式は、精度は少し劣るものの、水平に制限されない自由な積層が可能で、デザインの幅が広がります。わたしたちも建築という大きなスケールを見極め、造形の自由度を高めることを優先し、ロボットアーム式のプリンタを導入することを決めました。
▪️現在の取組
プリンタを導入して1年、材料の選定から設計手法まで、本当に苦しい手探りの中、先日ようやく一つ小さなプロジェクトが実現しました。Formnext ForumというAM(付加製造技術)と3dプリントをテーマとした展示会で三菱ケミカル株式会社のブースの設計と造形を担当することとなったのです。
これまで培った建築の詳細設計とプリント造形を組み合わせ、立体が繊細に組み合いシームレスに連続する幅5m高さ2.4mの壁面を造形しました。端部の役物の造形と納まりなど、建築家が3dプリンタを持った時の仕事はひとつ盛り込めたように思います。